「介護職をお手伝いさん扱いしていたNさん」

介護職のあるある

左上肢麻痺のあるNさん。

あまり笑わず、いつもピリピリしています。

入浴介助の時は、ボディソープは合わないそうで、

「牛乳石鹸」

「頭のてっぺん、痒い」「もっと爪を立てて洗って」

「そこじゃない!」 「ここ、シャワーかけて!」「あれ取って!」

と要求が多く、きつめ・・・。

私たちを「お手伝いさん」かのように扱っていました。

はっきり言って、職員皆、苦手で嫌いな利用者さんでした。



実はNさん、医療ミスで脊髄を損傷され、左上肢が麻痺してしまったのです。

「もうこんな体になって、何にも、楽しくない!」

「何にも出来ないし、生きている意味なし!」が口癖でした。


施設の10周年記念パーティがありました。

何か、皆さんにやって頂こうと思いました。

「Nさん、詩吟を習っていたんですよね?詩吟なら手を使わなくても

謡えるじゃないですか?謡いませんか?」

と提案をしてみました。

「もう無理だわ。無理!」と渋られていましたが、得意であった詩吟の歌詞を探してきて

お見せしました。

すると謡い始めました。しっかり声が出ていました。

「いいよ、Nさん!」と励まし、10周年パーティに見事に謡われました。

恥ずかしそうだったけど、ちょっぴり誇らしげ。

いつもとは違うNさんの表情が見られました。


夫婦二人で住んでいらっしゃいましたが、ご主人の持病が悪化したため、

ご主人がNさんのお世話をするのが負担となってしまいました。

お子様たちは、これまでもお二人に無関心で、今後もお世話をする様子がなく

お二人とも一緒に老人ホームに入る事になりました。


Nさんとお別れの日が来ました。

私たちをお手伝いさんのように扱われたNさん。

今日も愛想がありませんでした。

でも、Nさんは本当は老人ホームになんか入りたくありません。

お子様たちにも寄り添ってもらえず、寂しそうでした。

あんなに嫌いだったのに、

・・・なんだか寂しくなりました。

「Nさぁん~!」と思わずNさんの膝の上に伏せて泣きました。

Nさんは黙って窓の外を見て、涙をこらえていました。



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